①会社法について
会社法とは、会社の設立や運営のルールについて規定した法律です。
すべての株式会社がこれに従います。
会社法には会社に関する様々な規定がありますが、
例えば、こういったものがあります。
○第104条(株主有限責任の原則)
株主の責任は、その有する株式の引受価額を限度とする。
○第332条(取締役の任期)
取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
会社法には、計算等に関する規定もあります。
例えば、445条です。
○第445条 (資本金の額及び準備金の額)
1 株式会社の資本金の額は、この法律に別段の定めがある場合を除き、設立又は株式の発行に際して株主となる者が当該株式会社に対して払込み又は給付をした財産の額とする。
2 前項の払込み又は給付に係る額の二分の一を超えない額は、資本金として計上しないことができる。
3 前項の規定により資本金として計上しないこととした額は、資本準備金として計上しなければならない。(以下略)
②会社計算規則について
会社法の計算規定は少ないです。
詳細な計算方法や手続きについては、会社法から会社計算規則に委任されています。
会社法○第432条
1 株式会社は、法務省令で定めるところにより、適時に、正確な会計帳簿を作成しなければならない。
会社計算規則は、会社法の規定により委任された会社の計算に関する事項を定めた法務省令※です。会社法の子分・弟分みたいなもんです。
※省令とは
各省の大臣が制定する命令です。全てを法律で規定しないで、省令で規定しているのは、機動的に世の中の情勢に合わせて法令を改正するためです。
法律の改正には、国会の承認が必要なため、時間がかかってしまいますが、省令については、行政の権限で変更ができるため、比較的短期間で改正を行うことができます。
規定の根幹に関わる部分のみを法律で規定し、詳細な計算方法や手続については、省令で規定するというように役割を分担しています。
会社計算規則には、例えばこんな規定があります。
会社計算規則○第73条
1 貸借対照表等は、次に掲げる部に区分して表示しなければならない。
一 資産
二 負債
三 純資産
2 資産の部又は負債の部の各項目は、当該項目に係る資産又は負債を示す適当な名称を付さなければならない。(以下省略)
会社計算規則○第74条
1 資産の部は、次に掲げる項目に区分しなければならない。この場合において、各項目(第二号に掲げる項目を除く。)は、適当な項目に細分しなければならない。
一 流動資産
二 固定資産
三 繰延資産
2 固定資産に係る項目は、次に掲げる項目に区分しなければならない。この場合において、各項目は、適当な項目に細分しなければならない。
一 有形固定資産
二 無形固定資産
三 投資その他の資産
③企業会計原則について
会社計算規則は、主に表示面の規定です。会社法や会社計算規則に規定されていない、会計に関する処理は、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」に従うことになっています。
根拠条文は下記の通りです。
会社法○第431条
株式社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする。
会社計算規則○第3条
この省令の用語の解釈及び規定の適用に関しては、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準その他の企業会計の慣行をしん酌しなければならない。
一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行は、具体的には企業会計原則を指します。
企業会計原則は、昭和24年に企業会計審議会によってつくられた、日本の企業会計の教育的指導的役割を果たす憲法のような存在です。
④新基準について
企業会計原則は、昭和57年以降一度も改正されない古い基準です。考え方も少し古く、新しい現実社会に対応するためには、下記の新基準を適用します。
新会計基準
○棚卸資産の評価に関する会計基準
○金融商品に関する会計基準
○固定資産の減損に関する会計基準
○リース取引に関する会計規基準
○研究開発費に関する会計基準
○退職給付に関する会計基準
○外貨建取引等会計基準
○税効果会計に関する会計基準
など
新会計基準を優先し、そこに記載されていない部分は企業会計原則を適用するという構成になっています。企業会計原則の一部は、現在死文化しています。
⑤過去の経緯と今後
会社法(当時商法)・会社計算規則(当時商法施行規則)(以下「旧商法会計」)は法務省系、企業会計原則は金融庁系で、昔は考え方が根本的に違っていました。
「旧商法会計」は、資産の換金価値などを重視していました。
一方、企業会計原則は収益・費用アプローチを採用して、業績利益の算定を重視していました。
昔はずいぶん両者の内容が違っていました。
このため、昭和49年に実質一元化をはかり、お互いが譲歩しました。結果、企業会計原則は、一部「旧商法会計」との妥協の産物みたいなものになっています。
そこから30年が経ちました。
これからの新会計基準は「旧商法会計」に妥協しません。
会計も国際化で、もうそんな「旧商法会計」の思考でやっていける時代ではなくなってしまいました。企業会計原則も古い考え方なのですが、「旧商法会計」はそれ以上に古い考え方で、国際的な考え方とは全く違うものだからです。
また、新会計基準は、企業会計原則の考え方を全面的に引継ぐ事もしません。
企業会計原則は収益費用アプローチを採用していますが、これからは国際的に資産負債アプローチが主流になるためです。
新会計基準は、「旧商法会計」の思考に関わらず、国際会計基準との調整を重視しつつ、現代の会計にあるべき規定をしています※。一部は実務の要請等も取り入れていますが。
そして、会社計算規則においても、新基準との齟齬(そご)が生じないように、新会計基準の内容が柔軟に取り入れられています。
企業会計のイニシアティブ(主導権)は、新会計基準側に移されたわけです。
参考
※討議資料
財務会計の概念フレームワーク(PDF)
現在の日本の、会計の考え方などをまとめたものです。