
会社で会計を強くする 坂本 孝司 TCK出版
本書はTKCの宣伝のような記述が多いが、基本的に言っていることはもっともであり、なんども「うんうん」と頷いた。
中小企業の経営者は会計帳簿の事を「税務署に提出するために作る書類。」と思っている場合が少なくない。ひどい場合、会計事務所の税理士やその職員ですらそう思っていたりする場合がある。
会計は本来、「自社の状況を正確に把握し、未来に向けた意思決定をするための道具」である。特に中小企業にとって外部報告は副次目的であり、内部管理が主目的である。
その有用性は数百年前から証明されている。
かつてドイツの詩人ゲーテは、複式簿記を「人類のもっとも偉大なる発明」と言った。また1637年制定のフランス商事王令は、「破産時に会計帳簿を提出しなかった者は死刑」とし、帳簿の作成を義務付けた。
それだけ会計帳簿は有益であり、現代でもその有用性に疑いはない。
身近な例でいえばこうだ。
ダイエット管理には、正確なカロリー計算とその記録が必要である。「記録をつけ始めた時点で、ダイエットの半分は成功している」と言われている。記録もしないで「とにかく頑張る」といったダイエットはほとんど成功しない。
これと同様、会計帳簿は経営管理に必須の道具である。
現代は会計ソフトなどのコンピュータによって簡単に会計帳簿が作れる。会計帳簿の作成にコンピューターを使っていない企業はほとんどないだろう。
さて、会計帳簿が出来たとしよう。そこから自社の状況を正確に把握するためには、簿記の学習が必須である。
あるスポーツを実際にやった事がない人間が表面的にそのスポーツを語るのと、そのスポーツを実際にやった事がある人間がそのスポーツを語るのとでは雲泥の違いがある。
簿記も同じである。簿記の知識がない者が決算書を理解・分析するのと、簿記の知識がある者が決算書を理解・分析するのとでは、雲泥の差が出る。真の簿記の実力がある者は、決算書の金額がどうやって作成されたかまで想像でき、決算書のより深い理解・分析が可能になる。
つまり現代において簿記の勉強は、会計帳簿を作成するために必要なのではない。会計帳簿の状況から企業の状況を判断するために、簿記の知識が必要なのである。
ところで、県内企業の経営者は、会計事務所に不満を持っている場合が多い。
年に1回来て申告書を作成するだけで、数十万から百数十間円の決算料を請求するような場合も多い。
会計事務所が経営に有益な会計システムを構築してくれない。内部統制システム構築をしてくれない。経営のアドバイスをしてくれない。というかそういった知識がそもそも会計事務所になかったりする場合もある。所長が平日昼間からゴルフに出かけ、または“副業”に専念し、会計知識もなく業務を職員に任せきりだったりする場合もある。
このような状況では、県内企業を会計で強くすることなど到底できないだろう。
山梨の企業を変える一つの道具が、会計力の強化である。
そのためには、まずは山梨の会計に携わる人間が意識を変えていく事が必要であろう。

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