今回1級試験で、
「資産負債法(資産負債アプローチ)に立脚した場合の負債の概念について、簡潔に述べなさい。」
なんて問題がでました。ちょいとこの辺りの話を説明してみたいと思います。
(なお、2級の方でもわかるように書いたつもりです。)
会計の基本的な考え方として、収益費用アプローチと、資産負債アプローチがあります。
以下まずは概要です。
○収益費用アプローチ
収益費用アプローチとは、企業の収益力(業績)を明らかにするために、収益・費用を重視する考え方です。
企業の収益力(業績)を明らかにするためには、利益獲得の源泉となった収益と、その収益を獲得するために犠牲となった費用を対応させて、利益を計算します。
収益と費用の決定を優先し、資産や負債は収益と費用の結果に依存して決まると考えます。
○資産負債アプローチ
資産負債アプローチとは、企業の価値を明らかにするため、資産・負債を重視する考え方です。適正な価値で評価された資産・負債に基づいて算定された純資産こそが、企業の正しい価値を表すと考えます。
この純資産の増加分、すなわち企業価値の増加分のうち、資本取引の影響による増減を排除した部分を利益として計算します。
資産と負債の決定が優先し、その後収益や費用は資産と負債の結果に依存して決まると考えます。
両者の考え方の違いを、具体的に経過勘定項目と繰延資産を例に説明します。
○経過勘定項目(未収収益 前払費用 前受収益 未払費用)
例 (借)前払費用××× (貸)支払保険料×××
収益費用アプローチ
①支払保険料の一部は、当期の費用ではない。
↓
②費用を取り消すべき。
↓
③その結果、相手科目に前払費用(資産)が計上される。
↓
④前払費用は、再振替されて、将来の費用になる。
(借)支払保険料××× (貸)前払費用×××
資産負債アプローチ
①保険料は一部前払なのだから、資産価値がある。将来のキャッシュ・インフローの増加としての価値がある(キャッシュ・アウトフローが生じないからその分キャッシュが増える)。
↓
②資産(前払費用)を計上すべき
↓
③その結果、純資産が増加し、費用が取り消される。
○繰延資産
繰延資産とは、すでに対価の支払が終了し又は支払義務が確定し、それに対応する役務の提供を受けたにも関わらず、その効果が将来にわたって発現される費用をいいます。
たとえば創立費・開業費・株式交付費などです。
例 創立に要した支出が200の場合
(借)創立費200 (貸)現金200
(借)創立費償却40 (貸)創立費40(5年間で償却)
収益費用アプローチ
①その支出が、将来の収益と対応している。
↓
②その支出を当期の費用ではなく、次期以降の費用とすべき。
↓
③その結果、その支出が一度、繰延資産(創立費)としてして計上される。
資産負債アプローチ
①その支出が、資産計上に値するほど将来のキャッシュ・インフローを生み出す可能性が高い。
↓
②それは経済的価値であり、資産計上(創立費)される。
↓
③その結果、その支出が費用として処理されない事になる。
上記2例は考え方の違いであり、会計処理に相違はありません。しかし、収益費用アプローチと資産負債アプローチで、会計処理自体が変わってくる場合もあります。
例えば後入先法の廃止です。
後入先出法は、後から仕入れたもから先に払い出すという処理方法です。
この方法は、売上と売上原価が近い相場で対応する事から、物価変動時に適正な利益を算出する効果を発揮しました。この方法は、収益と費用の対応を重視する、収益費用アプローチからは支持されます。しかし、期末棚卸資産のB/S価額が時価と乖離するので、この方法は資産負債アプローチからは採用できません。このためわが国でも、資産負債アプローチを重視する国際会計基準との調和から、後入先出法は廃止されました。
1990年から2000年にかけて、国際会計基準委員会などが中心となって、「投資者に有用な情報は、B/Sによる将来のキャッシュ・フロー予測情報である」との認識から、B/Sを中心とした会計の体系を構築すべきであると考えられるようになりました。
このため、資産とは、発生の可能性の高い将来の経済的価値(高い可能性をもって将来にキャッシュ・インフローが生じるもの)と考えます。
一方、負債は、発生の可能性の高い将来の経済的価値の犠牲(高い可能性をもって将来にキャッシュ・アウトフローが生じるもの)と考えます。
わが国は長く収益費用アプローチを重視し、その考え方に沿って会計基準がつくられてきました。しかし、これからは国際的調和の観点から、資産・負債アプローチが主流になります。
参考
資産・負債アプローチを採用している、国際会計基準による資産・負債の定義は、厳密に堅苦しく表現するとこうなります。
資産とは、「過去の取引または事象の結果として当該企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入することが期待される経済的資源」である。
負債とは、「過去の取引または事象の結果として、特定の企業の現在の義務から生じる、将来の経済的価値の犠牲」である。(今回の1級の解答)
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