深夜24時頃には、体調が最悪になった。
こんなに体調が悪いのは久しぶりである。
数日前から前兆はあったが、己の体力を過信して、少し無理をしてしまったようである。
早く治さないといけない。
もうじき検定試験だ。
体調不良を少しでも早く回復したかった。
選択したのは睡眠薬(正確には睡眠導入薬というらしい)。
「睡眠薬を飲めば、少ない時間で集中して寝れるだろう。」
安易な選択である。
生まれてはじめての睡眠薬。
「癖になったらどうしよう」と思う一方、
「まあ俺は意思が強いから大丈夫だろう」と何の根拠もなく思いつつ、
使用上の注意を全く読まず、
とりあえず2錠飲んで横になってみる。
なんだかフワフワしたような気分になる。
あまり心地よい気分ではない。
このあと一体どうなるのだろうか。
結果、すぐに寝れた。
想像以上にすんなり寝れた。
これは楽である。
調子にのって、朝おきてすぐにまた2錠飲み、また寝てみた。
また寝れた。
だいぶ体調がよくなった。
これは使えると思った。
「癖にならないように気をつければいい。」
「いまは体調を戻すのが先決だ。」
そして日曜夜、また2錠飲んでみた。
その夜は、なぜか寝れなかった。
またいつもと違う感覚がやってきた、というのはわかるのだが、肝心の眠ることができない。
寝れなくてもがいて、時計をみたらら深夜4時。
いや、もしかしたら、一度寝て起きてしまったのかもしれない。
もう少しだけ飲んでみようか。
風邪の状態からとにかく早期に回復したかった。
冷静な状態から考えると、あまりにも安易な選択である。
そのときの判断能力はだいぶ鈍っていた。
再び2錠飲む。30時間くらいで8錠飲んだ事になるが、前に飲んだ時間からだいぶ時間はおいているので、大丈夫のはずだった。しかし、大丈夫と勝手に思い込んでいただけだった。
床に就く。
フワフワとしたような感覚。
普段とは違う感覚。
決して心地よくはない。
だが、寝れるはずだ。
寝れるはずだった。
しかし、なかなか寝付けない。
そして、私は眠りに落ちず、とんでもない落とし穴に落ちた。
しばらくもがいたあと、うとうとしはじめたような気がする。
そこに至る過程は、具体的には覚えていない。
だが、これははっきり覚えている。
私は幻覚に襲われた。
なんと、布団の下からゾンビが現れたのだ。
ゾンビは人間の形をしていた。
色は水色系、服はぼろぼろ。
ちょうどマイケルジャクソンの名作、スリラー(動画)に登場するようなゾンビである。
ゾンビは私に密着し、私を地下に引き込もうとする。
朦朧とする意識のなか、夢だと判別はできた。
しかし、夢でもさすがに地下に引き込まれるのは怖い。
このため、ある程度意識を取りもどす。
ゾンビは消える。
「怖い夢だったなぁ。早く寝よう。」
再びうとうとし始める。
今度は幻聴が聞こえてくる。
「おい、遊びにきたぞ。」
知らない中年男性の声が聞こえる。
再び冷静に、ある程度意識を取り戻す。
朦朧としながらも冷静になる。
「おそらくこれは睡眠薬の副作用だろう。」
「ああ、早く寝よう。」
再びうとうとし始める。
またあのゾンビが現れる。
私を下から羽交い絞めにして、地下に引き込もうとする。
夢だとわかっていても、怖くて意識を取りもどす。
普段、人様の会社の地下倉庫にはなにがあるのだろうとか興味がある私も、
「ゾンビに地下へ連れて行かれた後どうなるか。」などという好奇心はまったく湧いてこなかった。
これは怖い。
「がばっ」と目を覚ます。
布団の中から飛び起き、立ち上がり、強引に意識を取り戻す。
ほぼ通常の意識レベルに戻る。
現実には特に変わった事は起きていない事を確認する。
明日も朝から(出先で)講義である。
寝なければならない。
しかし、さすがにあのゾンビがまた出てくると思うと、怖くて眠ることができない。
昔見た、スキャナー・ダークリーという映画を思い出す。
麻薬捜査官がおとり捜査で麻薬組織に潜入したが、自身が薬物中毒になってしまう映画だ。
その映画の登場人物の一人が、体から虫が湧いて来る幻覚に襲われ、体中をかきむしっていた。
「そんなバカな話があるのかよ。」
当時はそう思っていた。
だが、いまはリアルに想像ができる。
今夜、私に虫は湧いてこなかったが、ゾンビが襲ってきた。
座りながら、しばらく考え込む。
寝よう。
とにかく寝よう。
ゾンビはは現実ではない。
襲われても大丈夫だろう。
再び床に就く。
睡眠薬は使い方次第で良薬になる。
睡眠薬のせいにするのは拙速かもしれない。
ただ寝ぼけていただけかもしれない。
心のどこかに何かの不安・ストレスがあったのかも知れない。
だが、理由はもういい。あのゾンビは怖かった。
あのゾンビに会わないようにするため、これから健康管理をしっかりしようと思っただけでも十分な収穫である。
翌朝、目が覚める。
ゾンビは再び現れなかった。
もしかしたら、現れたが寝てる間に忘れてしまっただけかもしれない。

インド版スリラー(動画)本家スリラーに負けない名作である。
ただ、朝起きて"あいつ"が部屋の隅っこで寝てないか目視確認してしまったのは余計だった。