リタイヤはしたくない。
疲れているので練習を休みたい。
考えると走らない理由がたくさん出てくる。
とりあえず走ってから考えることにする。
走り始める。
引き返したくなる。
くそっ!くそっ!
ちくしょう!
根性がない!
俺は一体なにやってんだ!
必死に努力してきたら、こんなわけないだろう。
とっくに外人の秘書がいるはずだ。
ヘリコプターに乗ってるはずだ。
ちくしょう!くそっ!
時々声に出す。
河川近辺でだれもいないが、聞かれたら変な人である。
通報されてもおかしくないだろう。
マイコースに富士川を渡る橋がある。
橋をわたる階段を登る。
フィラデルフィアで、栄光の階段をかけ上るロッキーのように両手をあげて勝ち誇る。虚しい事はわかっているが、毎回やる。

橋の位置は高い。
怖い、落ちたら死ぬ。
だから、わざと手すりギリギリを走る。
俺は軟弱だ!
いままでセーフティに生きてきた。
戦場にいる兵士とはわけが違う。
生死を越えていない。
生死を越えて生きる!
橋の下を見ながら走る。
落ちてニュースになる自分を想像する。
間抜けな死に方である。
余計怖くなる。
橋を降りる。
暗い道を進む。
霊とかそういうのは怖くない。
そんなものは存在しない。
もし、いても構わない。
踏み潰せるならそんなものは踏み潰してやる。
怖いのは頭のいかれた人間だ。
住宅街に入る。
一戸建てが立ち並ぶ。
閑静な住宅街を、無関係なおっさんが苦しそうにそこを通過する。
通って悪いのか?
お前らの道なのか?
お前ら社会から富を奪っている事しってるか?
お前らは俺より努力してきたのか?
いや、そもそも俺は努力してきたのか?
被害妄想と自己嫌悪が交錯する。
もしかしたら、自分は今悩んでいるのかも知れない。
二周目に差し掛かる。
戻るかどうか悩む。
疲れた。もう帰りたい。
「私たちの疲労は仕事によって生じたのもではなく、悩み、挫折、後悔が原因となっていることが多い。」カーネギー
そうだ、楽しく生きよう、楽しいことをしていれば、疲労はない。
忘れていた。俺は楽しんでいる、走ること、人生を楽しんでいる。
橋を渡る。
暗闇を抜ける。
住宅街を抜ける。
家はすぐそこだ。
シャワーが待っている。
「チャンスが目の前に現れたときにこれを掴む人間は、十中八九成功する。不慮の事故を乗り越えて、自分のチャンスを作り出す人間は百パーセント成功する。」カーネギー
カーネギーさん、俺は百パーセント成功して、あなたの言葉を証明する。俺は簿記王になる。簿記で上場するから、そして社会の役に立つから。
くそったれ!
俺は勝つ。
家などプリンと同じ感覚で買ってやるよ。
おっさんは、予定外の三周目に足を向けた。