
内容
死刑執行を担当する刑務官の苦悩が描かれている。
刑務官は、刑務官になったときに、死刑を執行するなどということは考えていなかった。しかし、その仕事がまわってくる。執行を担当したくないが、仕事上の義務は果たさなければならない。
刑務官の職務は、受刑者を教化して、社会復帰させることである。彼らはその仕事に誇りを持っている。しかし、死刑囚は社会復帰できない。故に職務と死刑の矛盾に葛藤する。
死刑囚の中には、まったく人格が生まれ変わり、仏陀そのもののような人格を身に着けた者もいる。その者に対して死刑を執行するのが、とても辛いという。死刑執行を担当した刑務官は、全員が心に傷を負う。そしてそれを隠すように一生を過ごす。刑務官や刑務官の家族は、実際に死刑を執行する現場の刑務官の気持ちも考えてほしいと言う。
本書で一番印象的なのが、刑務官のご家族の話(概略)。
Lさん(女性・当時小学生)の父は刑務官。昭和20年代、刑務官の給料は安かった。
ゴム製の雨靴が登場し、Lさん以外のクラス全員がそれを持っていた。Lさんもほしかった。ずっと口には出さなかったが、ついその事実を母に漏らしてしまい、それが父に伝わってしまった。父は「もう少しまってろ」と言った。後日、父はゴム製の雨靴を買ってきてくれた。Lさんはとても嬉しかった。
ある日、クラスメイトがこう言った。
「Lちゃんのお父さん、人殺しで死刑になる人を殺す仕事なんだって?」
「死刑囚を殺すと特別な手当がもらえるんだってね。」
事実、死刑執行に関係した刑務官には、その日に特別な手当が出た。そしてその日の仕事は午前中で終わり、帰宅が許された。
父は給料日でもないのに長靴を買ってきてくれた。長靴に限らず、何かを買ってきてくれる日、父はいつもふさぎこんでいた。Lさんは事実を確信した。Lさんは父親が“汚い仕事”で得て買ってくれた品々を庭に投げ捨てた。
時が経ち、Lさんはこの事を思い出すと、親にどう詫びても詫びきれない気持ちで一杯になる。しかし、終に親にその事を謝ることができなかった。